朝、水槽を覗いたら水草に白い粒がびっしり並んでいた。繁殖なんてさせていないのに、どうして。
わたしも一度これをやりました。冬のあいだ暖房を入れない廊下に水槽を置いていた年です。春に部屋へ戻したら、2週間ほどして水草に白い粒が並んでいました。繁殖させるつもりは一切なかったので、本当に心臓が止まる思いでした。
予期せぬ産卵でいちばん困るのは、「卵をどうするか」をその日のうちに決めなければいけない気がしてしまうことです。でも実際には、今日やるべきことと、数日待ってから決めていいことがはっきり分かれています。孵すかどうかは、今日決めなくて大丈夫です。
卵を見つけたら、まず今日やること
結論から書きます。今日やるのは次の3つだけです。
- 卵を別容器に移す(迷っているなら、とりあえず移す)
- はっきり潰れている卵・糸を引いている卵だけ取り除く
- 親を静かに休ませて、水温を動かさない
順番に説明します。
① 迷っているなら、とりあえず卵を移す
「育てるかどうか決まっていないのに移すの?」と思われるかもしれませんが、これが大事です。親は自分の卵を食べます。異常な行動ではなく、傷んだ卵を片づけている面もあるのですが、放っておくと数日のうちに卵が残っていません。
あとから「やっぱり無精卵だった」と分かれば、そこで取り除けばいいだけです。捨てる判断はいつでもできますが、食べられた卵は戻ってきません。だから迷っている段階では、残すほうに動かしておくのが安全です。

移すのは卵のほうです。繁殖のガイドでは産卵後に親を隔離する手順を紹介していますが、予期せぬ産卵では移し先の水槽がないことがほとんどですし、産卵直後の親は体力を落としています。
別容器は、こうすれば足ります。
- 容器はプラケースやタッパーで構わない。深さは10cmほどあれば十分
- 水は今の水槽の飼育水を使う(新しくカルキ抜きした水に急に移すと負担がかかります)
- 水草やスポンジに産み付けられている卵は、無理に剥がさず土台ごと移す
- エアレーションは弱めに当てる。水温は18〜20℃を目安に、直射日光の当たらない場所へ
卵は1個ずつ産み付けられているので、剥がそうとすると潰れます。産み付けられた土台ごと動かすのが、いちばん失敗しない方法です。
② 取り除くのは「はっきり傷んでいる卵」だけ
ここで気をつけてほしいことがあります。産んだ直後は、有精卵も無精卵も透明から白っぽい半球状で、見た目にほとんど差がありません。
ですから初日に「白っぽいから無精卵だ」と判断して取り除くと、育つはずの卵まで捨ててしまいます。今日取り除くのは、すでに形が潰れている卵と、糸を引いて崩れている卵だけにしてください。白っぽさでの判定は5〜7日後です。
潰れた卵を一粒ずつ取り出すには、細口のスポイトが扱いやすいです。手やネットだと隣の卵まで動かしてしまいます。水槽掃除にも使えるので、常備しておくと産卵以外の場面でも助かります。
③ 親は休ませて、水温を動かさない
産卵は体力を使います。産み終えた親が底や隠れ家でじっとしていても、まずは静かに休ませてください。
このタイミングで水温を上げ下げしないことも大事です。あとで説明しますが、水温の変化そのものが産卵のきっかけになります。
繁殖させていないのに卵を産む3つの理由
「ペアで飼っているわけでもないのに」と思われるかもしれませんが、予期せぬ産卵はきっかけがはっきりしているケースが多いです。
① 冬の冷え込みがそのまま「繁殖スイッチ」になっていた
ウパちゃんの繁殖は、水温が下がってから上がるという流れでスイッチが入ります。繁殖を狙う人はこれを人工的に作るのですが、日本の住環境では狙っていなくても同じことが起きます。
暖房を入れない廊下や玄関に置いていると、冬のあいだ水温は自然に10℃近くまで下がります。そして春に部屋の気温が戻れば、水温もゆるやかに上がる。繁殖させる手順とほとんど同じ流れです。自然界の繁殖期が2〜3月あたりなのも、まさにこの温度変化が起きる時期だからです。

夜のあいだに水温が何度まで下がっていたかは、覗いたときの数字だけでは分かりません。最高最低温度を覚えるタイプの水温計を使っておくと、「知らないうちに冷やしていた」に気づけます。産卵だけでなく拒食の原因を探るときにも効く道具です。
② オスと同居した過去がある(体の中に精子が残る)
これがいちばん見落とされます。ウパちゃんのメスは、オスが出した精子の袋を体内に取り込み、受精嚢という場所に溜めておきます。卵が通るときに受精させる仕組みなので、オスがその場にいなくても有精卵を産めます。
ですから「先月オスを別の水槽に移したから大丈夫」とは言い切れません。アホロートル自体の保存期間を示した研究は見つかりませんでしたが、同じ属のサンショウウオの報告では、産卵後に残った精子は1ヶ月ほどで劣化し、6ヶ月を超えて残ることはないとされています。繁殖期をまたいで保存されることはない、という結論でした。
近縁種のデータなので当てはめ方は慎重にいきたいのですが、「別居させた直後なら有精卵は出ない」という前提は持たないほうが安全です。ひとつの目安として、別居から半年は有精卵の可能性を見ておいてください。
③ 「メス」と言われて買った同居個体がオスだった
ウパちゃんは若い個体のうちに売られることが多く、雌雄がはっきりしてくるのは成熟してからです。ショップで「メスです」と言われて迎えた個体が、育ってみたらオスだった、というのはめずらしい話ではありません。
2匹で飼っていて卵が出たなら、相手の性別をもう一度確認してみてください。総排出口の膨らみや体型で見分けられます。くわしくはウーパールーパーのオスとメスの見分け方で解説しています。
有精卵か無精卵かは5〜7日で分かる
判断は数で決めず、変化で決めるのが確実です。
育っている卵は透明感を保ったまま、中の黒い粒が形を変えていきます。無精卵は白く濁ってきて、やがて形が崩れ、水カビが生えることもあります。この違いが出てくるのが産卵から5〜7日ほど経ったころです。
白く濁った卵が出てきたら、その段階で取り除いてください。傷んだ卵から水カビが広がると、隣の有精卵まで巻き込んで死なせてしまいます。水そのものも急に汚れます。

今1匹しか飼っていない場合は、無精卵の可能性が高くなります。ただし理由②のとおり、過去にオスと同居したことがあるなら有精卵もありえます。先に確認してほしいのは「今何匹か」ではなく「オスと暮らしたことがあるか」です。一度もないのであれば、少量の卵が落ちている程度は単独のメスでも起こりうると言われています。学術的に調べた資料は見つけられなかったので、飼育者レベルの話として受け取ってください。
卵の管理や孵化までの日数はウーパールーパーの繁殖方法で詳しく扱っています。水温20℃前後なら約14日、15℃前後なら約20日が孵化までの目安です。
全部孵すと何匹になるか、先に計算する
ここがいちばん現実的な話になります。
ウパちゃんの1回の産卵は100〜500個程度です。孵化率が落ちたとしても、数十匹が泳ぎ出す可能性は十分あります。
孵った稚ウパには、次のものが必要になります。
- 孵化後2〜3日でブラインシュリンプなどの生き餌が必須になる(人工飼料は食べられない)
- 体長差が1.5倍以上つくと共食いが始まるため、サイズごとに分けて飼う容器が必要になる
- 小さい時期は水質変化に弱く、2〜3日に1回の換水が必要になる
つまり水槽ひとつでは収まりません。育てるなら容器を複数用意して、毎日ブラインシュリンプを孵化させる生活が数ヶ月続きます。孵化から7cmまでの流れは稚ウパの育て方にまとめてあります。
稚ウパの最初の餌になるブラインシュリンプは、自分で孵化させて与えるものです。「全部育てる」と決める前に、この作業を毎日続けられるか想像してみてください。無理だと感じたなら、それは正直な判断です。
育てられないと判断したとき
全部は育てられない、という結論になることは普通にあります。むしろ数十匹を飼える環境のほうがめずらしいです。
無精卵なら取り除くのが正解です。育つ命ではなく、置いておくと水を傷ませるだけなので、ここは迷わなくて大丈夫です。
有精卵の場合、動けるうちに引き取り先を探すのが現実的です。購入したショップに相談すると、引き取ってもらえたり心当たりを紹介してもらえることがあります。孵ってからでは移動のリスクが上がるので、卵のうちに動くほうが選択肢が広いです。譲り先の探し方はウーパールーパーの里親探しで扱っています。
それも叶わず、孵化させない判断をする飼い主もいます。方法の是非は考え方が分かれるところなので、両生類を診られる動物病院やショップに相談してみてください。無理に自己流で処理しようとしないことだけ、お願いしておきたいです。
そして、これだけは避けてほしいことがあります。卵も稚ウパも、近所の川や池に放さないでください。
理由は2つあります。ひとつは、日本の夏の水温ではウパちゃんが生きられないからです。放流は助けることにならず、ただ苦しませる結果になります。もうひとつは、飼育環境から外へ病原体を持ち込むおそれがあることです。両生類の感染症対策の指針には、飼育水を消毒してから排水するよう求めるものもあります。それだけ慎重に扱われる話なので、水槽の中身を自然の水系に出すのは避けてください。
産んだ親のケアと、来年また産ませないために
卵を取り除いたあとは換水をして、水温は23℃以下で安定させておきましょう。25℃を超えると負担が増え、28℃に近づくと危険域に入ります。卵が傷めば水が汚れますし、体力の落ちた個体に水質悪化は効きます。

餌は、落ち着いて食べるようになったら通常どおりで構いません。産卵のあとも体は次の卵を準備するので、年に数回産む可能性があります。痩せが目立つ、食べない日が続く、お腹の張りが引かないといった状態が続くなら、お腹が膨れたときの見分け方で産卵前の膨らみと病気の違いを確認してみてください。
来年また予期せぬ産卵を起こしたくない場合、打てる手は2つです。
ひとつは、冬に水温を下げすぎないことです。暖房を切る部屋に置くなら、水温が10℃近くまで落ちていないか確認してください。低水温そのものはウパちゃんにとって苦しいものではないのですが、下がってから上がるという流れが産卵のきっかけになります。年間の振れ幅を小さくしておくのが確実です。
もうひとつは、オスとメスを分けることです。ただし分けてから半年ほどは体内に精子が残っている可能性があるので、しばらく油断しないでおきましょう。
よくある質問
- 卵を親が食べてしまいます。病気でしょうか。
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病気ではありません。自分の卵を食べるのはよくある行動です。ただ放っておくと卵が残らないので、育てる可能性を残したいなら、今日のうちに卵を別容器へ移してください。
- 卵をそのまま放っておいたらどうなりますか。
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無精卵が白く濁って水カビが広がり、水質が一気に悪くなります。有精卵が孵った場合は、稚ウパが親に食べられます。どちらに転んでも水槽に負担がかかるので、放置はおすすめできません。
- 卵を冷やして孵化を遅らせ、時間を稼げますか。
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卵を別容器に移したうえでなら、水温を下げれば発生は遅くなります。15℃前後で約20日、20℃前後で約14日が目安です。ただし親のいる水槽の水温を動かすのはやめてください。回復中の親に負担がかかるうえ、水温の上下が次の産卵のきっかけになります。
- 同じメスが何度も産みます。体に悪くないですか。
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産卵には体力を使うので、続くと心配な状態ではあります。水温の上下を繰り返さないようにして、餌をきちんと与えてください。痩せや食欲不振が続く場合は、両生類を診られる動物病院に相談しましょう。
- オスとメスを分ければもう産まなくなりますか。
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有精卵は出にくくなりますが、無精卵を少量産むことはあります。また分けた直後はメスの体内に精子が残っている可能性があります。同じ属のサンショウウオの報告では産卵後の精子は1ヶ月ほどで劣化し6ヶ月を超えて残らないとされているので、別居から半年は有精卵の可能性を考えておいてください。
まとめ
- 今日やるのは3つだけ。卵を別容器に移す、潰れた卵を取り除く、親を休ませる
- 迷っているならとりあえず卵を移す。捨てる判断はあとでできるが、食べられた卵は戻らない
- 産卵直後は有精卵も無精卵も見分けがつかない。白濁での判定は5〜7日後
- メスは体内に精子を溜められるので、別居から半年は有精卵の可能性がある
- 1回の産卵は100〜500個。全部孵すなら容器を複数と毎日のブラインシュリンプが必要になる
- 育てられないなら卵のうちに引き取り先を探す。川や池には絶対に放さない
予期せぬ産卵は、驚きはしますが異常事態ではありません。ウパちゃんが無事に冬を越して、体がちゃんと成熟していた証拠でもあります。慌てて決めずに、数日かけて判断してあげてください。


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